治安

強盗騒ぎ

ナイロビ郊外にちょっとした庭のある家を借りて数年経ったある金曜日の夕方、前日から明日の夕方はバーベキューにしようと言っていたのでそれ用の肉や炭を買い早めに家に帰った。時間があったので庭で皆で1時間程バドミントンで汗を流し頭も身体もリフレッシュしその夜は多いに盛り上がった。バドミントンと言っても羽根突きのようなポーンポーンというのではなく、

ビシッ!ビシッ!と鋭く決めていく激しい動きをするあれなので結構息切れもする。

翌土曜日の朝、二日酔いの頭を水道の蛇口の下に突っ込んでしばらくそのままにしていると何とか目が覚めてきた。その後、サ~ッ仕事に行くか~と心も身体も頭の中も爽快な気分で玄関を出ようとした時、ゲートで騒がしくクラクションを鳴らす車がいた。“誰だいこんな朝っぱらから…”と煩いとは思ったが別に不安には思わなかった。

シャンバボーイ(庭師兼ハウスボーイ兼門番)のピーターを呼んで誰だか見に行くようにいった。がピーターは何も言わずにゲートを開けたので誰か知ってる人でも来たのかな?と思った。エンジンを勢いよく噴かせて走りこんできたワンボックスカーの横にPOLICEと書いたステッカーを貼っていた。車のドア-を開けて5~6人の私服を着た警察官(と思った)が機関銃を構えながらドドドッと降りてきて家に中に入ってきて

「インベスティゲーション!」と何やら興奮して怒鳴り散らし始めた。

「ララチニ!ララチニ!(スワヒリ語で床に伏せろという意味)」

と言いながら白目が真っ赤に充血した目を向け機関銃の先で胸をこずいてきた。

こずかれながら(こちとらだって大和魂だい!黙って言われた通りに言うことをきけるかい!)「ナ、何の用だ!」

と精一杯震える声で威厳を保とうとしたが

「インベスティゲーションだ、黙って床に伏せていろ!」と3年以上歯を磨いていないんじゃないかと思われるようなひどい臭いと夕べ飲んだと思われる安い地酒の醗酵した臭いがモロに吹きつけてきたので思わず顔を背けながら(こりゃ~逆らったら何をされるか判らんナ)と言われた通りにした。3人位(だと思ったが)が応接間からベッドルームに入っていってまだ夢の世界を漂っていただろう皆なをたたき起こし無理やり応接間に連れてきた。皆な寝ぼけ眼なこのまま(一体何が起きたんだろう)とちらちらと不安な目付きで床に伏せている僕を見た。ただこの後に及んでもまだポケ-ッとした顔つきで、目がウロウロと不安が一杯の福島から来た川渡のとっつあんが、

「エ、エンさんど~したの?」と言った途端

「フンガムドモ、ララチニ!(何も喋るな、伏せろ!)」と背中をどやされ機関銃の先で床を差して背中を押され僕同様床に伏せさせられた。

「顔を上げるな!そのまま伏せていれば何もしない!」

と言われハッと気がついて恐る恐る手を上げ

「エ-ッ、済みませんが皆に通訳していいいですか…?全員英語もスワヒリ語も判らないので…」

「ァ~ヤ、サワサワ…(いいだろうしてやれ…)」

…で皆に

「何も抵抗さえしなければ危害を加えないから皆そのままジットして…何か知らないけど家の中を調べるそうだけど…」…と全員ハッと身体が固くなるのが判った…   

「…、…、…、」

・………

…で1人だけが見張りとして残りの連中は奥の僕の部屋へ入ってガタガタやっている様子だった。(アッ、ヤバイな~昨日日本から送ってもらったばっかりの明日支払う予定の200万円を見られたら困っちゃうナ~…)とうつ伏せになりながら気が気じゃなかった。もしかしたらこの金も盗られ自分だけじゃなく皆の金も見つけられトンデモナイ言い掛りをつけられるんじゃないかと覚悟した。

ところが5分程(だったと思う)し、我々がいる応接間に戻ってきて皆の腕から腕時計を外したり、ポケットを探ったり、現金を盗ったり、ラジカセを持って行こうとしたりしているので

「アッ!何だこいつらは泥棒じゃないか!」

と始めて気が付いた!

「頭を上げるな!」

と足で頭を蹴られ

「何だこの野郎、人の頭を土足で蹴っ飛ばすとは泥棒のくせに許せない奴だ!」

とは思っても何しろ相手は機関銃を持っているので文句も言えずただひたすら撃たれないように…“神様~!”…と祈るしかなかった…

「いいか、しばらくそのままにしてろ、動くんじゃないぞ!」

と言いながらドヤドヤドヤッと出ていった…

まだ誰か残って様子を見てるんじゃないか、又頭を蹴っ飛ばされるんじゃないか、としばらくそのままにしていたが車がブワー!ッと精一杯エンジンを吹かして走り去っていったのてやっと起き上がった。

「オイ、皆な大丈夫か何か盗られたかチェックしてみよう!

と自分の部屋の現金200万円が心配なくせに見に行くのが恐い気持ちと一家の責任者として動揺する心を皆に悟られたくなくて何気ない振りをして皆の心配をする振りをしていた。

…で結局全員のルックサックを開けられドルの現金とケニヤシリングの現金は全部盗られていたがトラベラーズチェックだけは残されていた。闇替えでも率が悪いし下手すると足がつくので敬遠したのだと思う。

「こっちはトラベラーズチェックはOKだったからよかったけど、エンさんの部屋はどうなの?」

「ウ、ウン今チェックしてみる…」

果たしてどうなったのか、もう盗られてしまってるだろうな~…明日の空港でのカメラ機材の税金の支払いはどうしよう~…と心臓がドキドキし顔からサ-ッと血が引いてるのが感じられた。

それでも何とか部屋に入っていった…

戸棚はひっくり返され、引き出しも投げ出され、ベッドの上に書類関係が散らばり、洋服タンスの中にあったシャツ類なども全部引き千切られたように床に捨てられてあった。

ひっくり返された戸棚の裏蓋が捲られて中に仕舞ってあった書類なども滅茶滅茶になっていた。

「ァ~ァ、もう金も盗られてどうしよう…」

諦めきった心境と震える手で山盛りになった書類を持ち上げていたら

「ア~!あった~!!!」書類の一番下に輪ゴムで止めた札束6つがそのままあるではないか!!!信じられないのと嬉しいのと“あ~助かった~…”と一挙に胸の奥が暖かくなってきた。

お金は棚の一番前に置き、戸を閉めて鍵を掛けていたので強盗共は鍵を開けるよりひっくり返して裏の柔らかいベニヤを破った方が手っ取り早いと思ったんだろうが戸棚を引っくり返したお蔭で現金は戸棚の奥においておいた書類の一番下になってしまい慌てていた強盗連中は書類だけだと勘違いして書類の下まで探さずに諦めてしまったものと思う。

イヤ~…ヨカッタヨカッタ…200万円が無事で何か宝くじに当ったような気分だった…

 

その後すぐ近くのポリスステーションへ行き事情を説明したら

「そいつらはまだ居るのか?」と聞く

「もういないよ行っちゃったよ、だからこうしてここに来られたんじゃないか」

「じゃ今一緒に行くからちょっと待て」

それから15分後、さっきの受けつけにいたオフィサーとは違う私服のポリス2人が

「トエンデ(行こう)」と言う

家に戻ってさっき起きたことを説明し友達の金がT/C以外はみな盗られたことを言う。

「お前は何を盗られた」と聞くので

「ラジカセ2台と小型ラジオ1台とケニヤシリング一万シリング」と言う

200万円分のお金は無事だったしポリスといえどそんな大金を見せたら何を言われるか判らないので何も言わないことにした。

ピーターも呼ばれ何故ゲートを開けたのか、顔に見覚えあるか、車のナンバーを覚えているかなど聞いていたようだった。

それに対してピーターは車の横にPOLICEのステッカーを貼っていたしインベスティゲーションだと言われたから開けたし顔も見たこともなくナンバーも覚えていないということを言っていた。

大体の事情を聴取してポリスはもう帰るというので、一体これからどうなるんだ、盗られた物は取り返せるのかと聞いたらもう現金は無理だし、ラジカセもダウンタウンに行けば売っているかるかも知れないと言う…じゃその強盗を見つけて弁償してもらいたいと言ったら

「彼らはもうどこかへ逃げて隠れてしまったからもう無理だよアッハッハ…」

「だってそれを見つけるのがあんたたち警察の仕事じゃないか!」

「ァ~ヤもしみつかったら知らせるよ…」

やる気のないのが見え見え…もうこれじゃやられ損だ…

 

今まで旅行者がスリに遭ったとか引ったくりにやられたとかは身近にも聞いていたけど自分が強盗に襲われるなんていうのは全く考えもしなかった。しかしどうして昨日銀行から下したばっかりの金がある時に来たんだろう…?何かタイミングがよ過ぎるんじゃないか…?今までこんなことは一度もなかったのに…?銀行から後をつけられたんだろうか…?誰かがたれ込んだとしか思われない…そう言えば昨日銀行から戻った時にカバンを大事そうに抱えて家の中に入ってきたがその時ピーターが掃除をしていたっけ…イヤ、ピーターを疑うのはよくないナ…しかしそれにしても日本人が強盗の仲間な訳ないしやっぱりピーターか…?ゲートをすぐに開けたのもオカシイし…その日の夜になっても中々眠れず何故だろう?どうして?を考えていたがどうしてもピーターが一番怪しいことに考えがいった…。

翌日朝起きてすぐにピーターを呼び

「昨日の強盗はお前がインフォームしたのかもしれないし違うかもしれない、何しろ何の証拠もない。しかしもしオレがポリスにお前のことを言ったら棒で引っ叩かれ、鞭で叩かれ、臭くて汚いマラリア蚊がブンブン飛んでる牢屋にぶち込まれ、白状するまで1週間でも1ヶ月でも入ってなきゃならないぞ…それがイヤだったら今すぐにここから出て行った方がイイ!」と言ったら

「イエス…」と言い、それから5分後に風呂敷包み1つを抱え出ていってしまった…やっぱりそうだった…