酒とタバコ

by Endo San | Category Bootstrap | 2016-04-01 22:43:38

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僕の生まれた町は宮城県北部いわゆる故郷(フルサト)と呼ばれる岩出山という名前の町。奥羽山脈の裾野が張り出してなだらかな平野につながり、稲田が遠くまで広がって夏は緑が濃く、秋が近い敬老の日ともなると小学校、中学校、高校など町中の子供達がイナゴ取りに狩り出され小学校の広い校庭に大きい鉄鍋が10以上も並び、町内のオバサン達が一つの釜に5~6人程掛かりワイワイ言いながら子供達が取ってきたイナゴを砂糖と醤油で煮たりしていた。他のオバサン達はイスやテーブルを並べたり皿ダ~箸ダ~柄杓ダ~ナンダ~カンダ~と賑やかでお祭りのようだった。煮こんだイナゴは町内のお年寄りに食べてもらったり、子供達にもおやつ代わりに分けてもらったりしていた。僕が育ったこの町は世間でよく言う田舎町ということになるのだろうけど子供の時分には自分は田舎者だなんて思いもしなかったし自分の住む世界が全てだと思っていた。岩出山という名前から想像するといかにも岩や石がゴロゴロしているような印象を受けるが町全体は低い丘陵地帯に囲まれた静かな田園風景の広がるのどかな町だった。東京から新幹線で約2時間、古川で奥羽本線に乗り替える。古川から岩出山までの車窓から見る風景は遠くに奥羽山脈の連なりが見えその山の麓まで水田が広がっていて“イヤ~こんなキレイなところでオレは生まれたんだナ~!”と何となく嬉しくなって“田舎と呼べるところがあって良かったナ~!”と思う。何が良いのか具体的には表現できないが子供の頃には殆ど毎日山の中に入って遊んでいた。どうやって何をして遊んでいたのか今じゃ思い出せないが森や林の中を歩き回るだけで楽しかった。ブナ、楢、楓、杉、椿などそれ以外にも名前は忘れたが沢山の種類の木があったことは覚えている。 特に夏から秋にかけてのシーズンには野生の果物が沢山採れるしそれらの甘い香りのする中を歩いていると自分は1人じゃないんだという安心感があっていつもだれかが一緒にいてくれるような不思議な感覚があった。 町を挟むようにその両側には鳴瀬川と江合川いう川が流れ、それぞれ澄き通った浅瀬の中でフナや鮎が泳いでいるのが道を歩いていてもよく見えた。それらの川のズ-ッと上流には鳴子ダム があって中学生の頃雪が積もる中でダムの修理のアルバイトをしたことがある。1日働いて100円位じゃなかったかと思う。約1ヶ月働いて腕時計を買った覚えがある。 この鳴子は温泉の湯治場としても有名で泣きコケシが特産でもある。鳴子峡という渓谷があってその崖沿いに散歩用の歩道があり夏などは涼を取りに来る人が多く、秋は秋で山あいから渓谷全体が紅や黄色の紅葉に覆われて素晴らしい景観を見せる。 僕の生家の庭にもリンゴや梅の木が植えてあって代々自家製の梅酒を造っていた。家の台所の片隅に大人がすっぽり入る位の大きな素焼きのカメが数個程並べてあり、その中に焼酎と青梅の実、角砂糖が口近くまで入れられていて1ヶ月もすると堪らなく香ばしい匂いがして来、よくコタツに入って試験勉強をしていてもモジモジしてきてついつい台所に入りカメの蓋を開け柄杓で梅酒をすくってゴクゴクやったものである。それでいい気持ちになってテレビでその頃流行っていたローレン、ローレンのローハイド!なんていう西部劇を観ながら興奮しながらも眠りこんでしまったものだった…それが下地となったのかどうか今でも酒は大好きである。大酒飲みではないがイイ雰囲気の中で酒を飲むのが好きだ。僕にとってのイイ雰囲気というのはイイ場所・イイ時間のことで例えば自分の好きな風景は、1つは静かに海を見られるところ(日本にいる時にはよく大晦日の夜は1人で房総半島に行って夜明かしで飲んでいた)、2つめは山奥にある渓流の側(これもよく日本でテントを担いで釣りに行っていた)、サバンナでのテントキャンプ(特にマサイマラのキチュワテンボというロッジの庭から見る風景)、そして障子越しに雪のふり積もるのを感じながらコタツの中で飲む熱燗……そんな時イイ相手とイイ酒があれば極楽! しかし酒なら何でもいいかというとそんなこともなく、その時々によってビールを飲みたい時やウイスキーを飲みたい時など雰囲気によって違う。イタリア料理店でスパゲッティ-を食べる時は矢張りワインが欲しくなる。それである時フイに高校生の頃に飲んだ梅酒の味が口の中に湧いてきて飲みたくて堪らなくなったことがあった。その時、まだ熟れる前のスモモを買ってきて角砂糖とウオッカを買い、みようみまねで梅酒を作ってみた。子供の頃の記憶では少なくても1ヶ月はそのままおいておかなければならないということを聞いたことがあるので、その1ヶ月間というものは家に帰ってもソワソワしてしょうがなかった… …でとうとう1ヶ月目が来て蓋を開けて飲んでみた・・・! …全然梅酒の味がしなかった…… …でその後酢を混ぜたりライムを入れてみたりちょっとジンを入れてみたりしたがどうもあの昔恋しい味が出てこなかった…それでとうとう軟弱者の私は“大和や”という日本食販売の店に行ってそこで日本からの梅酒(ゥメッシュ)を買って飲んだ。飲んだがしかし…ゥ~ン、ヤッパリあのお袋の作った味は例えようのないお袋の思いでだナ~…! そして初日の出と共に飲む酒は美味しいというよりも多少なりとも厳かな気分になるもので、元旦に昇る朝日を見て手を合わせると何となく仏様の世界に入ったような気分になった。しかし手を合わせるということは“神様仏様自分はこれだけの信心があるのでこれからの1年間何とか無事に過ごさせて下さい”とか“いいことがあるように”とか“できれば幸運が欲しいんですが…”などと自分が得することだけ、都合の良いことだけをお願いしていたものである。 ある日ナイロビドウドウハウスの仲間とナイロビから車で約1時間の所にあるンゴングヒルに 登って初日の出を拝もうじゃないかということになった。その頃(20年以上前)はまだまだ安全でドロボウノドの字もなかった頃だ。ンゴングというのはマサイ語で遠くを見るという意味らしい。マサイの戦士達はこの頂上から何を見ていたのだろうか…。標高は約2100m、頂上に立つと左がナイロビのあるキクユランド、右がマサイの住むマサイランドと景色がハッキリと分かれている。キクユランドは緑が多く肥沃な土地で農耕民族が多く遠くにナイロビのビル群が霞んでいる。 マサイランドは乾燥したステップ地帯で人が住んでいるような気配も感じられない。道は悪いがここの頂上まで4駆車でなら上って行けないことはないが今回は初日の出を拝みに来たんだからイージーにも車で上ってハイ、パンパン、じゃいかにも太陽の神様に対しイージー過ぎて失礼なんじゃないかと歩いて上ることにした。しかし麓からだと時間が掛かり過ぎるので途中まで車で行き、後の半分を歩いて上ることになった。ナイロビは標高約1700m、ンゴングヒルの裾野は1800m、そこから車で約200m上り、歩くのは100mということになる。100mといってもそれは標高差であってダラダラ坂有り、急坂ありで道の長さは700~800mにはなる。 男女6人がランクルに乗りナイロビの家を出たのが03:30、ンゴングヒルの中腹に着いたのが04:30、そこから車を置いて歩き始めたが05:30には頂上に着くだろうし明るくなり始める空を見ながら厳かな気分に浸るのが楽しみだった。山を上るとき右足と左足を1秒間ずつ交互に休ませながらユックリと進んで行くやり方があるがこの程度の上りなら走っても上れるだろうと多寡を括っていた。何しろ田舎で育って足腰は丈夫だし(子供の頃は…)富士山に登った時も殆ど息切れなんてしなかった(19才の時だった…)。しかしこの時の自分は36才だったがそれでもまだ体力には自信があった。歩き始めてすぐ上り坂になりチョット行って少々なだらかになりそこから又上りになっている。…でこの2度目の上りに差しかかった時急に膝に力が入らなくなり足を前に出すのが鬱陶しくなってきた。“ナ~ニこんなものはスグ治るしまだまだ大丈夫だ!”と自分に言い聞かせることにした。 「アレ、エンドウさんどうしたの…?」 「ウン、イヤ何でもない、急いでもしょうがないからちょっと一服してから行くよ…」 「じゃ~我々は先に行くよ…」 「ア~イイよすぐ追いつくから先に行ってていいよ・・・」 立ち止まってタバコを一服・二服吸い、吸いながらちょっと上ってタバコの火を消して上り始めた。回りは真っ暗闇だが先を行く皆の懐中電灯の光がチラチラ動いている。自分も持って いるので足元を照らしながら少しずつ歩いて行く。先を行く連中が段々遠くなって行く。 “なんであいつらあんな早く歩けるんだ、俺と大して歳も違わないのに…” 足に力が入らないのもそうだがノドが苦しくなり息をするのも苦しくなってきた。何やら心臓も苦しくなってきた。かと言って奴らに待ってくれとも恥かしくて言えないし… 又足を止めて休む。 「オ~イィ…エンドウサ~ンン、大丈夫~・・・」大分上から聞こえてくる 「オ~ォ、大丈夫だ!今行ってるから…」 それから15分くらいするともう完全に彼らの声が聞こえなくなった。 “何だ、あいつらはオレが1人で歩いてるってゆうのに冷たい奴ラダ!” と一人よがりのことを呟く…それからも休み休み上って行ったがもう疲れてきてこのまま帰りたくなってきた。それから約30分もしたろうか上の方からキャ~キャ~言う声が聞こえてきた。 “オッもう追いついたか、奴ラも疲れたんだナ、ザマ~ミロこのヤロウ…”何がザマ~ミロなのかそれでも息苦しい中でホットした。しかし立ち止まってよく上を見ると彼らは疲れたどころか動きが止まっていてもう頂上に着いているような感じだった! 「エンドウさん、早く来て…もう空が明るくなり始めてるヨ~…」 “ヤカマシイ!ホットケこのやろう!”ますます息苦しい中で呟く… それでもやっと皆のいる頂上に着いた時にはもうハーハーゼーゼー膝はガクガク、息をするにも酸素が足りない感じで肺の奥からニコチンの焼ける臭いとヤニが焦げる臭いがし、生臭い唾がダラダラ出てきて思わず座り込んで手を突いてゲーゲー吐いてしまった。ゲーゲー吐いても固形物はなく苦い胃液が出るだけでノドが狭くなった感じで吸う息も少なく頭も痛くなるわ胃袋は痙攣するわでヒドイ目にあった。 皆から心配そうに顔を覗かれたり背中を擦られたり“ウルサイ、 イイからお前らアッチ行け、”と言いたいが声の代わりにゼーゼーハーハーばかりで本当に恥かしかった!!! それからしばらくして落ち着いてきたが若い連中に情けを掛けられたのが悔しくてこのくらいのことで息が苦しくなるのは体力ではなくタバコのせいなんじゃないかと太陽が地平線から出てくると同時にポケットからタバコとライターを出し頂上から投げ捨てた。 「アフリカの太陽の神様、これから私は一切タバコは吸いません、止めます!」と誓った。 それ以来本当に一度も吸っていない。それで体力が元に戻ったのかどうかそれ以来山に登っていないので判らない。

 

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